京都工芸繊維大学 美術工芸資料館について
京都工芸繊維大学のキャンパスのほぼ中央に位置する美術工芸資料館の収蔵品は、前身校の一つである京都高等工芸学校の創立以来の収集品が中心となっています。京都高等工芸学校は明治35(1902)年に創立され、ヨーロッパにおける新しいデザインの動向を展望し、わが国におけるはじめての本格的なデザイン教育が開始されることになったのです。
収蔵品はデザイン教育の教材として集められ、絵画、彫刻、金工、漆工、陶磁器、染織品、考古品等多岐にわたっています。とくに、浅井忠の「武士山狩図」は、東宮御所(現迎賓館)の綴織壁飾の原画(実物の2分の1)として制作したもので、これと併せて収蔵されている一連の習作群は制作の過程を見ることのできる貴重な資料となっています。19世紀末から20世紀前半にかけてのアール・ヌーヴォー期のポスターコレクションも注目を集めています。これらは年間7-8回程度の企画展示を通じて公開しています。
展覧会のお知らせ
「鐔・髪飾りのかたちとデザイン―新収蔵品を中心に」
会期:2025.3.3 - 2025.7.12

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刀剣を装飾する刀装具は、鐔と三所物と呼ばれる目貫・笄・小柄が代表的です。柄と鞘のあいだに位置する鐔は、接近戦の際に相手の刀を受け止めるために必要であり、中央の穴には刀身を、左右の穴には笄と小柄(小刀)を通します。これら刀装具には早くからさまざまな意匠がほどこされ、強さや吉祥をあらわすものもあれば、文学的な主題を扱ったものもあります。また、髷を整えるなど身だしなみのために用いられたとされる笄は、しだいに結髪後に挿し込んで髪を飾るものへと変化しました。笄に加えて櫛や簪は多様な髪型が生まれるのに伴って髪飾りとして発達し、多彩な意匠がほどこされました。
京都工芸繊維大学美術工芸資料館で刀装具や髪飾りの所蔵がされてきたのは、意匠性と機能性を兼ね備えるものとして、恰好なデザイン教材と考えられたからでしょう。このたび新たに鐔をはじめとする刀装具約670点と髪飾り約180点を収蔵し、大きくその幅を拡げることとなりました。
本展は、新たにコレクションに加わった刀装具や髪飾りの一部を公開するとともに、鐔を中心にそのデザイン教材としての可能性を探ります。鐔は円や角、木瓜などさまざまなかたちを持ち、戦いのための適切な大きさ・重さといった条件を満たしながらデザインされています。そんな鐔そして髪飾りのかたちとデザインを通して、日本において育まれてきた身に着けるものへ美を追い求める心に学んでいただければと思います。
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「海をゆく建築 -村野藤吾と本野精吾の船室デザイン」
会期:2025.6.2 - 2025.7.12

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かつて、船は各国の科学技術や芸術文化の象徴として、世界中の多くの建築家の注目を集めました。たとえば近代建築の巨匠ル・コルビュジエ(Le Corbusier 1887-1965)は、代表的著作である“VERS UNE ARCHITECTURE”[建築をめざして](1923)の中で「商船」という章を設け、船を新しい建築の実現への第一歩として掲げています。また、彼の代表作のひとつである「マルセイユのユニテ・ダビタシオン」(1952年竣工)は船をイメージしてデザインされたとも言われています。ル・コルビュジエは生涯をとおして、船に強い興味と憧れを抱いていました。
ル・コルビュジエが船について記した同じ頃、1920~30年代の日本において、船は国力を示す存在と考えられていました。とりわけ海外と日本を結ぶ豪華客船の船室デザインには、中村順平(1877-1977)や村野藤吾(1891-1984)をはじめとする国内の著名な建築家が関わりました。また、京都工芸繊維大学の前身校のひとつである京都高等工芸学校の図案科教授をつとめた本野精吾(1882-1944)も、国内を就航するいくつかの客船の船内装飾を設計しました。海上を進む建造物ともいえる船の室内は、地上の建築と同様に、またそれ以上に華やかに、きらびやかにデザインされたのです。
本展では、京都工芸繊維大学美術工芸資料館が収蔵する建築資料の中から、村野藤吾と本野精吾が関わった「船」にまつわる資料をご紹介します。設計図面やスケッチから、当時の客船の船室にほどこされた豪華な装飾とデザインをお楽しみください。
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